7.外壁剥離に対する喫緊の課題03 – 剥離剤処理問題
2011年の東関東大震災のおり東京都内で発生したネットの剥離(震度5)。これは離型剤処理、注入口付アンカーピンの固定効果不良、樹脂注入不良等に起因しているものと考えられます。(『月刊建築技術 6月号大737号』(株式会社建築技術、平成23年)p.60.
しかし、樹脂は透明な状態で硬化しており、混成比率にも全く異常はありませんでした。ではこれ以外にコンクリート強度を凌ぐ樹脂の接着力を阻害する要因があるのでしょうか。化学の観点から見た場合、樹脂の混成比率と乾燥に問題がなければ、仕上げモルタルと躯体表面の間に接着を阻害する物質が介在しているとしか言えません。もしここに介在物質が在るとすれば、唯一、離型剤以外に考えられません。すなわちコンクリート構造体は、木製や金属製の型枠にコンクリートを流し込み、その硬化後に、型枠を取り外して造成されていくのですが、その際、この型枠の取り外しを容易にするため、型枠の表面に油性の離型剤が塗られます。その油分が躯体表面に残り、樹脂の接着を阻害する要因ともなるのです。
国土交通省大臣官房官庁営繕部監修『建築工事監理指針 平成28年版(下巻)』(一般社団法人公共建築協会、平成28年)p.345における第15章「左官工事」の下地処理において、モルタルを塗る下地コンクリートに対し、高圧水洗処理による目荒らし工法等が指定されています。この目荒らしは下地コンクリート面を粗面にすることで、モルタルの接着を補完するのですから、離型剤処理対策にとっても、非常に効果的であるように思われます。
ただ残念なことに、同書において目荒らしを指定しているにもかかわらず、これが離型剤処理に関わることを意識していません。そのため、分業化された各専門業者、例えば躯体コンクリートを建造するもの、タイル張りをするもの、それぞれが何の連関もなく各自の作業を行うため、離型剤処理が軽視され、往々にして下地コンクリートの目荒らしが省かれてしまうことが多々見られ、この目荒らし作業の軽率な省略により、外壁が剥離してしまうこともあるのです。