本稿「3-2」において、昭和50年代以前、タイル仕上げ外壁は手張り工法が一般的で、それ以降、パネル工法、PC板先付け工法、型枠先付け工法、モルタル厚1~3mmの直張り工法等の新たなタイル仕上げ工法が、マンション等のコンクリート建造物において主流となったことについて触れました。

実際、古くからあるRC構造のタイル仕上げ外壁の建造物の一部が今なお健全な姿をとどめているのに対し、近年の建造物のタイル仕上げ外壁は、非常に短いサイクルで、改修されています。これが、技術的要因に起因するならともかく、あるまじきことに、人為的な問題が多々介在しているのです。弊社の経験から、この一例を紹介してみましょう。某元請会社から、近年、多くのマンション等で採用されている直張り工法のピンニング工事を受注しました。このタイル外壁は、躯体に1~3mm程度モルタルを塗り、直接、タイルを張り付けた直張り工法でした。したがいまして弊社は、タイルと張り付けモルタルの剥離、張り付けモルタルと躯体の剥離が考えられましたので、二層剥離を想定して樹脂注入工事を行いました(本稿「2」の「4.直に張り付けた壁」参照)。

ところが工事が終了してから2~3年後、躯体にピンを打ち込んだ部位は落下しておりませんでしたが、外壁の剥離面積が拡大したという相談を、弊社は元請会社よりうけました。そこで壁面をカットし、樹脂の注入状況を確認してみたところ、樹脂は円形状に広がっているものの、その円形状に広がった接着面が全く躯体に接着していませんでした。 このエポキシ樹脂の接着強度は、コンクリート強度を凌ぐ、1cm2当たり約80kgfの圧倒的接着効果をもつにもかかわらず、躯体コンクリート表面は傷もなく平滑で、張りモルタルが躯体コンクリートに接着した痕跡すらありませんでした。もしも樹脂の接着効果を無効にした原因が外壁改修業者にあるとすれば、二つの要因が上げられるだけです。第一は、エポキシ樹脂が二液性の混成樹脂であるため、混成比率に誤りをおかしたこと。第二は、湿潤性により樹脂の接着面が白化し、接着力を低下させること、以上の二点が上げられます。

 2011年の東関東大震災のおり東京都内で発生したネットの剥離(震度5)。これは離型剤処理、注入口付アンカーピンの固定効果不良、樹脂注入不良等に起因しているものと考えられます。(『月刊建築技術 6月号大737号』(株式会社建築技術、平成23年)p.60.

しかし、樹脂は透明な状態で硬化しており、混成比率にも全く異常はありませんでした。ではこれ以外にコンクリート強度を凌ぐ樹脂の接着力を阻害する要因があるのでしょうか。化学の観点から見た場合、樹脂の混成比率と乾燥に問題がなければ、仕上げモルタルと躯体表面の間に接着を阻害する物質が介在しているとしか言えません。もしここに介在物質が在るとすれば、唯一、離型剤以外に考えられません。すなわちコンクリート構造体は、木製や金属製の型枠にコンクリートを流し込み、その硬化後に、型枠を取り外して造成されていくのですが、その際、この型枠の取り外しを容易にするため、型枠の表面に油性の離型剤が塗られます。その油分が躯体表面に残り、樹脂の接着を阻害する要因ともなるのです。

国土交通省大臣官房官庁営繕部監修『建築工事監理指針 平成28年版(下巻)』(一般社団法人公共建築協会、平成28年)p.345における第15章「左官工事」の下地処理において、モルタルを塗る下地コンクリートに対し、高圧水洗処理による目荒らし工法等が指定されています。この目荒らしは下地コンクリート面を粗面にすることで、モルタルの接着を補完するのですから、離型剤処理対策にとっても、非常に効果的であるように思われます。

ただ残念なことに、同書において目荒らしを指定しているにもかかわらず、これが離型剤処理に関わることを意識していません。そのため、分業化された各専門業者、例えば躯体コンクリートを建造するもの、タイル張りをするもの、それぞれが何の連関もなく各自の作業を行うため、離型剤処理が軽視され、往々にして下地コンクリートの目荒らしが省かれてしまうことが多々見られ、この目荒らし作業の軽率な省略により、外壁が剥離してしまうこともあるのです。