FSセメントスラリー注入工法の基礎知識
1962年、故今泉勝吉博士がヨーロッパよりエポキシ樹脂の注入技術を導入し、1967年、広島・原爆ドームの改修工事に用いて以来、エポキシ樹脂はビル外壁改修工法の主原料として使用され現在に至っております。日本のビル外壁改修工事の発展に大きな影響を与え、建築改修工事の世界に多大な貢献をしたことはいうまでもありません。
近年2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震、2016年4月14~16日に熊本地震、2024年1月1日に能登半島地震、今後30年以内に首都圏直下型地震や東海地震、東南海地震の発生が予測され、首都圏直下型地震では死者の死因の80%が火災によるものであるとの予測がなされております。
現在、ビル外壁改修工事の主流は可燃性であるエポキシ樹脂を接着剤として用い、外壁と躯体との間に全ネジピンを刺しこみ接着固定する。又は注入口付アンカーピンで固定した後に樹脂を注入し接着固定する方法がとられております。
元々、RC構造のビル外壁はタイルやモルタルが塗られた完全な不燃体です。エポキシ樹脂やアクリル樹脂などの有機性可燃物の注入は本来避けなければならないと考えます。
今まで注入剤としてエポキシ樹脂やアクリル樹脂に代わる適切な材料や技術が無かったのも事実です。致し方なかったというのが事実かもしれません。
しかし、有機系のエポキシ樹脂やアクリル樹脂は290℃以下の温度で溶解し、固定力が0となってしまいます。災害によりビル火災が発生した場合には290℃という温度は簡単に到達してしまいます。外壁の固定剤としては全く役に立ちません。
現在、タイル業会ではエポキシ樹脂系の接着剤による接着張り工法が業界全体で進められているとお聞きします。もし、地震によってビル火災が発生した場合290℃に到達した壁面は固定力を失い、避難をするために逃げ惑う人達の頭上に落下してくるかもしれないのです。
今日までエポキシ樹脂による施工方法は社会に対して十分に貢献してまいりました。私達は多くの震災を経験し、犠牲を払い多くの事を学びました。不燃性であるセメントで造られた壁面には不燃性であるセメント材料によって施工を行うべきです。
現在、市販されているポリマーセメントモルタルの場合には約10%弱の有機性ポリマーが含まれております。熱に対して強度を保つ事が出来ません。完全不燃性である純粋なセメント材料を使用すれば何の問題もないのです。
我々はセメントスラリーを注入するための全ての技術を確立しました。今こそ勇気をもってビル外壁のあるべき形、「完全不燃化」に向かって進むべき時なのではないのでしょうか。
FSセメントスラリー工法に必要な諸条件
1)注入剤が完全な不燃性であること。
2)注入剤が剥離部に留まること。
3)ピンニング時の引き抜き耐力が1500N/本であること。
4)ピンの頭抜け強度が1500N/本であること。
5)高温化(800℃)でも固定力が保持できること。
剥離部内での形状保持力

ピン1本あたりの引き抜き耐力及び耐熱性

FSセメントスラリー1㎡あたりの壁面固定力の算出条件
1)仕上げ面厚 2.5 cm
- 監理指針(令和4年度版)第15節:モルタル塗り
- 同 6.18.4 調合および塗厚(3)参照
2)仕上げ面比重 2.3
3)仕上げ面荷重 563.5N/㎡
4)キャップ付全ネジピン引き抜き耐力 2.140N/本
5)キャップ付全ネジピン頭抜け耐力 3.000N/本以上
6)1㎡あたりの施工本数 12本/㎡
1.壁面固定力
\[
2.140\, \text{N}/\text{本} \times 12\, \text{本}/\text{㎡} = 25.680\, \text{N}/\text{㎡}
\]
2.壁面荷重に対する固定力倍数
\[
\frac{25.680\, \text{N}/\text{㎡}}{563.5\, \text{N}/\text{㎡}} = \text{約 } 45.6\, \text{倍}
\]
当社ではRC構造の塗り厚2.5cmを基準とし、1㎡あたりの施工本数12本を壁面の固定力基準単位とし、薄い場合は壁面の強度低下を考慮し施工本数を増やし、厚い場合は荷重増量による強度低下を考慮し施工本数を増やす。常に仕上げ面荷重の45.6倍の固定力を確保できるよう設定しました。
3.仕上げ面厚が2.5cm以下の場合
\[
\frac{2.5\, \text{cm}}{\text{仕上げ面厚}} \times 12\, \text{本} = \text{施工本数}/\text{㎡}
\]
4.仕上げ面厚2.5cm以上の場合
\[
\frac{\text{仕上げ面厚}}{2.5\, \text{cm}} \times 12\, \text{本} = \text{施工本数}/\text{㎡}
\]
5.施工ピッチの算出方法
\[
\sqrt{\frac{10{,}000\, \text{cm}^2}{\text{施工本数}/\text{㎡}}} = 施工ピッチ
\]
6,タイル壁への施工方法
1)下地厚1cm以上、仕上げ面厚2.5cmを中心として前記1~4に従って行う。
2)深目地の場合
タイル1枚につきピン1本の施工を行う。
3)下地が1cm以下の場合
タイル1枚につきピン1本の施工を行う。
4)陶片剥離の場合
1㎡への施工本数と別にタイル1枚につきピン1本の施工を行う。
FSセメントスラリー注入工法を開発し完成するに至り、この完全不燃化技術をどのような形で社会に届け、これから発生するであろう震災やビル火災による壁面の落下事故から1人でも多くの人を救う、この大きな課題に向き合う事が我々の使命であると考えております。
FSセメントスラリー注入工法に興味関心がございましたら当社へ直接お問い合わせください。
2025年 7月15日
FSテクニカル株式会社
代表取締役 藤田 正吾