本稿「5-1~2」において触れたように、劣化・損傷した外壁をシートやネットで覆う工法を総称的に「カバーリング工法」と呼び、このネットを固定する補助部材として使用されるのが上記の注入口付アンカーピンでした。 具体的にいえば、ここでいうカバーリング工法とは、建築後、10~15年経過した構造体においてモルタルないしタイルが剥離した外壁を、ネット等で覆う改修方法を指していますので、決して新築の構造体に施すカバーリングではありません。したがいましてカバーリング工法の施工図は、必ずモルタルないしタイルの剥離部を明記した施工図でなければなりません。 ところが多くみられる施工図には、この剥離部が明記されていないことが多いため、問題点が把握されにくくなっています。そこで、以下に注入口付アンカーピンを施したカバーリング工法の施工図を表記してみます。

従来のモルタル壁の構造図 モルタル壁空隙構造
従来のタイル壁の構造図 タイル壁の空隙構造

*白色部は空隙

上記の施工図を見れば分かるように、すでに触れた従来の注入口付アンカーピンでネットを張った場合、仕上げ部は破壊され、樹脂注入は注入不良を引き起こします。例えば地震による最初の衝撃は、この状態を想定すれば、おのずとエネルギーは4~5mm厚程度の仕上げ材の接合部とアンカー頭部に集中します。次いで、躯体とモルタル仕上げ部、モルタル仕上げ部と張りモルタル、張りモルタルとタイルが空隙を介して衝突を繰り返します。

この事態に対し、壁面が一時的に落下しなければ良いというのでは、二次災害は避けられません。なぜなら最初の揺れに対し二度・三度と繰り返される地震において、どれ程の耐震性があるか判断できません。まして、躯体に大きな損傷が生じていた場合、如何にしてこれを判断するのでしょうか。壁面を被覆材によって覆っていては全く分からないのですから。

この点において、壁面を金属パネルで覆うカバーリング方法も同様です。なぜならネットで覆おうと、金属パネルで覆おうと、一時的な外壁の落下を回避することはできますが、二次災害につながる躯体自体の損傷は判断することができません。したがいまして、これがカバーリング工法の最大の難点となります。こうしたカバーリング工法に頼らぬ方法が在るとすれば、躯体と外壁を一体化する樹脂注入と、すでに本稿「3-2」で述べたモルタル厚の適正な設定ではないでしょうか。なぜなら仕上げ部と躯体が剥離し、モルタルに亀裂が生じた場合、30mm程のモルタル厚があれば、30mmのズレが生じなければ外壁は落下することはありません。30mm厚ということは、ズレが10mm移動しても落下しないということですから、目視で容易に亀裂を発見することもできます。さらに、この落下の前兆となる損傷状態から、躯体の損傷部位も容易に特定することができるはずです。しかし近年の1~3mmのモルタル厚ではどうでしょうか。人間の目で1~3mmのズレを発見することは到底できません。したがいまして、今私たちが即座に損傷を把握しうる技術的方法は、決して大掛かりな大規模修繕をすることではなく、外壁のモルタルの塗り厚を広くとることと、確実な樹脂注入を行いさえすれば、人間の目による目視が単純でありながらも、最も確実な方法となるのです。